訪問介護で知っておきたい排泄介助における生活リハ
排泄行為や排泄介助はとてもデリケートな部分で、介助される本人(要介助者)や介助者双方への身体的・精神的に大きな負担があります。
排泄に関して問題を抱えている方も多く、介助者は下剤等を使用して排泄を促す事もあります。
しかし、排尿・排便がない際に第1選択が薬による対症療法でいいのでしょうか?
日常生活は暮らしの中で「心と身体を動かしていく」ものです。
そこで今回は実際に介護現場で行っている排泄ケアにおける生活リハビリテーションについて解説していきます。
排泄ケア・リハビリテーションは大きく5個の方法に分けられます
その① 座位姿勢
最初に考えることが座位姿勢についてです。単に座位姿勢といっても様々な種類があります。
日常生活の中で寝ている事や座っている事、車椅子上での生活がメインになっている方は特に【仙骨座り】と呼ばれる座り方が多いです。
これは一般に言われるズッコケ座りや滑り座位の事で体幹が後方に倒れている、背もたれに体重を預ける座り方です。この座り方では自力排泄が困難になります。
実際にこの記事を読んでいる読者の皆様もトイレで仙骨座り排泄にトライしてみてください!困難さを実感する事が出来ます。(私自身経験しましたが困難でした…)
では、排泄に適した座位姿勢とは何なのか?
その答えは【座骨座り】と呼ばれる座り方になります。
この座り方のイメージは有名な銅像である「考える人」の座り方です。
座骨座りは体幹が前方に位置しており排泄筋である腹部周囲の筋肉を使いやすくなり、直腸と肛門が一直線に位置することで排便が容易になります。
実際に私たちが排泄を行うときには座骨座りで行っています。
座骨座りの生活リハビリテーション
次に排泄に適した【座骨座り】の生活リハビリテーションの方法を皆様にお伝えしたいと思います。
座骨座りがどのような座り方なのか、メリット等はイメージ出来たと思いますので、生活の中で実際にどういう関わり方で促せばいいのかを具体例を挙げていきます。
人が座骨座りになる時は限られています。普段は楽な姿勢を取りたい、または興味がない時は背もたれに体重をかける【仙骨座り】になっていることが多いです。
反対に
興味がある事や集中している時には前無意識のうちに前のめりになり、その座り方こそ【座骨座り】になります。
このように人の無意識の反応を活用し、1人1人に応じた興味のある事柄を介助者自身が考える事で生活の中で座骨座りのリハビリテーションが行えます。
具体的な方法
実際に生活リハビリテーションの現場で行うものとして多いのが
男性であれば新聞を読んでもらう事やテレビ番組をプロ野球や相撲中継など興味のあるスポーツ番組にすることで前のめりになる事が多いです。
女性はスポーツ観戦等より物づくりが好きな方が多いので難易度の高い大人の塗り絵や折り紙等をしてもらうと前のめりの姿勢で作業を行ってくれます。
これらは認知機能低下がある方でも比較的容易に導入しやすい作業です。
反対に認知機能低下が無く自尊心が高い方には計算問題やパズル等難しい課題を行ってもらうことにより座骨座りを誘導する事が出来ます。
ここまで挙げたのはほんの一例ですので、個人の興味関心に応じた作業や周囲環境の設定が必要になります。
また、座骨座りで机上作業を行う事で排泄トレーニングに加え体幹筋の姿勢保持筋力増強等の身体機能向上・認知機能向上にも繋がり様々なメリットがあります。
その② 自律神経に関して
人の神経には運動の指示を出す運動神経、熱い・冷たい、痛い等を伝達する感覚神経、自分の意志とは無関係に働く自律神経があります。
自律神経とは大きく2つに分ける事が出来ます。
それが【交感神経】と【副交感神経】です。
交感神経とは活動中に強く働いており筋肉系統などに多く血流を循環させます。副交感神経は安静時に活発になり内蔵系に多く血流を循環させ活動を促進させます。
排泄に関して大切なのは「副交感神経の活動を促進させること」になります。
副交感神経が優位な時間帯とは?
副交感神経は安静時に活発に作用しますので、時間帯としては睡眠中・起床後の朝や就寝前の夜に優位になります。
反対に日中は身体を動かすことが多いため交感神経優位となっています。
そのため、トイレ誘導する時間帯として起床後や就寝前がベターなタイミングになるという事です。自分の排泄のリズムで考えた際もトイレへ行く頻度は朝・夜の方が多いです。
食事前後の自律神経の働き
次に食事と関連した自律神経系の働きについてです。
食事中は交感神経優位となりますが、食事後時間経過と共に副交感神経優位となるため消化器系(胃・小腸・大腸等)が活発に働きだします。
特に便意を誘発する腸の蠕動運動(食べ物を消化吸収しながら直腸へ移動させる運動)が活発になることで排便が容易になります。
また、胃に食べ物が入ることで大腸では胃・大腸反射(便を直腸に送り出す)が起き、直腸に到達すると直腸・結腸反射(便を更に直腸に送り出す)が起こります。
このように目に見えない神経や内蔵系の働きを意識することでトイレ誘導の時間の工夫や薬に頼らない排泄ケアに繋げる事が可能です。
その③ 排泄時の環境
排尿・排便コントロールが困難な場合には紙パンツやパッドを使用する事もあると思います。
紙パンツ内での排尿・排便は感触も気持ち悪く、私自身紙パンツ内での排尿に挑戦したことがありますが、出来ませんでした…
そして、何よりもトイレで排泄行為をするという事は人間としての尊厳を保つためにも大切です。
便座は一般的な椅子よりも身体を支える面積が狭いため不安定です。
便座での座骨座りが困難な方に対しては手すりを住宅改修などで設置する事や、トイレ移乗やふんばりやすいトイレ環境を補助するためのファンレストテーブル(トイレに設置する開け閉めが出来るテーブル)等があります。
福祉用具等を用いて環境設定を行う事で、介助者にとって負担を軽減できるだけでなく
要介助者にとっても「トイレで排泄行為を行える=生活場面での活動量が増えリハビリに繋がる事」になります。
その④ 下剤等の薬剤を使うメリットとデメリット
排泄コントロールが困難な場合には下剤等の薬を使い排泄を促進する場面を私自身よく経験します。
特に医療や介護現場では症状に対しての対症療法による処置を第1選択とする場合が多く、困っている方に対してもっと日常の中で出来る事を考え行うべきだと考えています。
薬に頼るのではなく、排泄ケアや生活リハビリで行える事を実践し、緊急性が高い場合などに下剤等の選択肢を選ぶのが最も良いのではないでしょうか。
下剤を使うメリット
メリットとしてまずは即効性があるという事です。
長期間排泄物が出ないと腹部が張ってくる事や、腹痛、食欲不振・吐き気などの症状が出てきます。また、重篤な症状として動脈硬化やがん細胞が発生しやすくなる等があります。
このようなリスクがある事から排泄が何日間もない場合には下剤使用をオススメします。
また、昨今では便を柔らかくする薬や腸の神経を刺激して排便を促す薬等様々な種類の下剤が開発されており、個人の症状に合わせた下剤を処方出来るため効果が出やすいというメリットがあります。
下剤を使うデメリット
次にデメリットとして、薬を使うことによる胃・肝臓への負担が挙げられます。特に薬を分解・中和する肝臓には大きな負担がかかります。
肝臓は「沈黙の臓器」とも呼ばれ異常が発見された時には手遅れになる場合が多いです。
薬は身体に元々存在しない成分を含んでいますので出来れば飲まないほうがいい事は明らかです。
また、薬には耐性がつくという特徴がありますので、長期間服用し続ける事で結果的に薬剤量増加や現在より強い薬が必要になり、ますます胃や肝臓への負担が増加するという悪循環に陥ります。
さらに、下剤使用を続けると自力での排泄活動が低下することから下剤への依存性が生じてしまい「下剤を服用しないと排便できない身体」になってしまうデメリットもあります。
その⑤ その他の要因
ここまで、高齢者や日常生活上での活動量が減少しているため排泄が困難な方に対してのケアや生活リハビリについてお伝えしました。
この他にも排泄に関しては様々な要因があり、ストレス等の精神的要因による自律神経系の機能不全や、食事メニューによる食物繊維不足、水分補給不足等があります。
これらの解決策も生活の中で工夫することが大切になります。
特に高齢になると排尿の間隔が短くなる事や喉の渇きを感じにくくなることで、水分摂取量が減少する傾向にありますのでこまめな水分補給を勧める事が大切です。
また、排便がないことで食欲低下を引き起こし食事摂取量が減ることで上記している自律神経系の反射・反応が悪くなり、【排便出来ない⇔食事を食べない】と悪循環を引き起こし、日常生活での活動量や活気が低下し、全身状態が悪くなる事もあります。
まとめ
今回は、排泄ケアにおける生活リハビリについてまとめました。
排泄は医療・介護の現場だけでなく、在宅介護においても大きな問題です。また、デリケートな問題であるため難しい問題でもあります。
しかし、同時に避けては通れない課題でもあります。その中で排泄ケア・リハビリテーションの方法を把握・実践することで要介助者・介助者双方にとって有意義なものになると確信しています。
健康寿命を延ばす事を考える面においても、排泄ケアを行うことで、身体機能面へのアプローチにも繋がり1日に出来る事はわずかでも、1カ月・1年・10年と積み重ねることで大きな差になります。
介護に携わっている皆様にとって少しでも役立つ事や、排泄に悩む方の一助になれば幸いです。